意識して摂り入れたい栄養素:鉄分
鉄分は不足しやすい栄養素であるにもかかわらず、毎日の食事から十分な量を摂取することはなかなか難しいというクセモノ栄養素。
そして、鉄不足で問題になるのは貧血だけではありません。こども達の脳の発達にも大きな影響を与える可能性があることがわかってきています。
今回は、そんな大切な栄養素である ”鉄分” について、知っておきたいことをまとめてみました。
体内での鉄の働き
身体中へ酸素を運ぶお手伝い
- 鉄分は血液中にあるヘモグロビンの材料の一つです。ヘモグロビンには酸素を身体中に運ぶ大切な役割があります。運ばれてくる酸素によってエネルギーを作り出し、生命を維持することができます。
- 筋肉の中にあるミオグロビンにも鉄は必要です。ミオグロビンは、血液から運ばれてきた酸素を受け取り、筋肉内に運搬しエネルギー産生系に供給する役割があります。
→→ つまり、ミオグロビンが不足すると筋肉内への酸素供給が減少します。疲労感や筋力低下、だるさの原因になります。
中枢神経系の発達をお手伝い
あまり知られていませんが、脳はたくさんの鉄が含まれています。そして、その鉄は脳の発達には欠かせない役割を果たしています。
鉄は、神経の伝達速度を速めてくれるミエリンの形成に必要であったり、神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン)の合成に必要な補酵素の材料として重要です。
ドーパミン:「生きる意欲を作るホルモン」とも呼ばれ、「やる気」の素になります。
鉄不足になりやすい時期とその理由
結論を先に言うと、「子ども達は常に鉄分が不足しやすい」と考えてもらったほうが良いと思います。
なぜなら、子ども達はものすごいスピードで体も脳も成長しているからです。
乳児期
赤ちゃんがいる家庭ではもうご存知かと思います。
乳児期後期(9ヶ月ごろ〜)から、赤ちゃんの体は鉄不足の状態になっていきます。
フォローアップミルクを勧められるのもこの時期ですよね!
これは、①もともと持っていたママ由来の鉄分が枯渇すること、②体の急激な成長により多くの鉄分が必要になること、③離乳食での鉄摂取が足りていないこと などがその理由です。
そして、低出生体重児や早産児ではもう少し早く生後4,5ヶ月ごろから鉄不足になることもあると報告されています。
幼児期〜学童期
偏食などにより、食事に含まれる鉄分 < 体が消費する鉄分 であることに加えて、牛乳を多く飲むお子さんに鉄不足が見られることがあります(牛乳貧血) 。
これは、牛乳には鉄分がほとんど含まれていないこと(鉄分添加の牛乳を除く)、牛乳をたくさん飲むことでお腹がいっぱいになり食事量が減ってしまうことによって、鉄分を十分に摂取できないことが原因です。
また、大量の牛乳(カルシウム)が鉄の吸収を妨げてしまうことがあります。
関連記事:牛乳貧血に気をつけて!に適正な牛乳摂取について詳しく説明しています。
思春期
この時期は、再び体が急激に成長するため鉄分の消費量が増加します。また女性では月経が始まることも鉄不足の原因になります。
さらに、部活動などの激しい運動によってスポーツ貧血という状態になることもあります。
鉄不足により見られる症状
神経発達への影響
脳は体の中で最も酸素を必要とする臓器です。したがって、鉄不足のためにヘモグロビンによる酸素運搬量が減少すると脳はうまく機能することができません。
また先にお話ししたように、神経伝達物質の合成にも影響するため以下のような問題が生じるとされています。
乳児期〜
- 泣き入りひきつけ
- 易刺激性の亢進
(わずかな刺激でも泣いてしまうなど) - 睡眠・覚醒リズムの乱れ
- 知能の低下
(言語学習能力や記名力の低下など) - 注意・運動・認知・行動面での機能の低下
(注意力の低下や情緒不安定など) - 鉄不足が続くと、鉄欠乏性貧血
(皮膚蒼白、食欲不振、頻脈、心肥大など)
思春期以降
- 落ち着きのなさ、集中力の低下
- 学業成績の低下
- (部活などの)運動の記録の低迷
- 意欲の低下
- 舌炎、口角炎、味覚異常
- 異食症
効率よく鉄分を補給しよう!
鉄分の大切さがわかったところで今度はどうやって摂取するかが問題です。鉄は意識しないとなかなか摂るのが難しい栄養素だからです。
乳児期や離乳食期のお子さんとそれ以降のお子さんでは鉄分の摂り方に少し違いがあります。
年齢別のコツを参考にしてみてください。
乳・幼児期
低出生体重児、早産児
これらのお子さんは乳児期中期ごろから鉄欠乏になっていることがあります。
多くは小児科でフォローアップされていると思いますので担当の先生の指示に従うようにしていただければと思います。
一般的には、鉄のシロップが処方されたり、粉ミルクとの混合栄養で対処されることが多いです。
乳児期後期〜
ママ由来の鉄分が消費されて、鉄不足になってくる時期ですね。
既に離乳食も始まっていますので、離乳食で鉄分を補給したいところです。離乳食では次のことを意識して鉄不足を予防してみてください。
- 鉄分を多く含む食材を使用する
赤身の肉・魚、レバー(市販のレバー粉末でもよい)などの動物性食品に含まれる鉄はヘム鉄といって吸収率がより高い鉄分です。
小松菜、大豆製品(豆腐、納豆、きなこ)、卵、海藻類なども鉄分を含みます。これら植物性食品に含まれる鉄は非ヘム鉄といって、吸収率がそれほど高くはありません。個人的にお勧めなのがオートミール!
鉄分だけでなくカルシウム、ビタミンB1も豊富なんです。オートミールパンケーキは休日の我が家の定番朝ごはんです。
- ベビーフード(BF)を利用する
市販のBFは、栄養バランスを計算して作られています。うまく利用することで鉄分を補うことができます。 - ビタミンCと一緒に摂取する
ビタミンCは鉄の吸収を促進することが知られています。お肉など鉄分の多い食材と一緒に野菜や果物も食べるように工夫をしてみてください。
しかし、食べムラがあったり、栄養バランスの取れた食事を毎食作ることが難しかったりするのが日常です。
実際に1日に必要な鉄分量を離乳食から摂取することは容易ではありません。
そういう時には、フォローアップミルクをうまく利用できるといいですね。
直接飲む以外にも、調理時に牛乳替わりに使うこともできます(パンケーキ、グラタン、スムージーなど)。
学童期〜思春期、成人
1日の鉄分摂取量は、学童期以降は成人と同等量が推奨され、思春期に至っては成人以上に摂取が必要とされています。したがって、毎日の食事(間食も含む)からしっかり鉄分を摂取できるような工夫が必要です。
そのためには、
- 鉄分を多く含む食品を知る
具体的な含有量を覚える必要はなく、献立を考える際にパッとイメージできると良いですね。 - 鉄分の吸収率を上げる食べ方を知っておく
- 鉄分の吸収率を下げる食べ方を知っておく
以上のことを大まかに知ることが大切です。
鉄分を多く含む食品
ヘム鉄を多く含む
ヘム鉄は肉や魚に含まれる鉄分で、吸収率が良い(10-20%)のが特徴です。
非ヘム鉄を多く含む食品
非ヘム鉄は植物性の食品に含まれる鉄分で、ヘム鉄よりも吸収率が低くなります(2-5%)。
吸収率を上げる食べ方
- ビタミンCと一緒に摂る
大根、ジャガイモ、葉物野菜を使った副菜や食後のフルーツでビタミンCを一緒に摂ることで鉄の吸収率が上がります。特に非ヘム鉄では大切です。 - 胃酸の分泌を増やす
胃酸は鉄の吸収質を上げてくれます。「よく噛んでゆっくり食べる」「酢の物、梅干し、柑橘類などを食べる」ことで胃酸の分泌が良くなります。
吸収率を下げる食べ方
- タンニンを含むものを一緒に食べる
タンニンは緑茶やコーヒー、紅茶に多く含まれます。これらを食事中や食後に大量に摂取すると鉄分の吸収が悪くなると言われています。 - シュウ酸を含むものを一緒に食べる
ほうれん草は鉄分が比較的多い野菜ですがシュウ酸も多い食品です。シュウ酸は下茹ですることで減少するのでほうれん草を食べる際は下茹でをした方が鉄分摂取の面では有益です。たけのこもシュウ酸が多いので灰汁を取ることが大切です。
いかがでしたか?
体内での鉄分消費量は減らすことができません。つまり、しっかり摂取するしかないのです。
まとめ
こどもの成長に大切な栄養素「鉄分」について説明しました。鉄分はどの年代でも不足気味な栄養素です。鉄分を多く含む食品や鉄の吸収率を上げる食べ方を理解して、意識的に鉄分を効率よく摂取したいものです。
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