ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)とは?
産前・産後のママに起こりやすい整形外科疾患シリーズの2つ目です。
基本的に大人の疾患ですが、最近ではゲーム好きの子どもにも発生しています。
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ドケルバン。。。?
ドケルバンってどんな腱鞘炎?
いくつかある腱鞘炎の中でも頻度が高く、親指に生じます。
親指には指を動かすために幾つかの腱が付着していますが、その中でも①短母指伸筋腱と②長母指外転筋腱という親指を伸ばしたり、外転といって親指を広げる動きを担う腱に炎症が起こります。
日本整形外科学会HPより引用
これらの腱は、手首の辺りで ③腱鞘と呼ばれる鞘で作られたトンネルの中を通っています。
腱鞘は長い腱がプラプラしないように、滑らかに動けるようにするための
滑車のような働きをしています。
何らかの原因で腱鞘が炎症を起こし腫れ上がる(肥大)とトンネル内が狭くなり、腱が滑らかに動かなくなるため、指を使うたびに痛みが生じます。
日本整形外科学会HPより引用
ドケルバン病の原因
ドケルバン病は圧倒的に女性に発生することが多く、原因は大きく2つに分けられます。
- 手指の使いすぎによる負荷
特に親指に負荷がかかるような日常動作や特定の職業の方によく見られる腱鞘炎です。
例 料理人(重いフライパンの振り下ろし、包丁の長時間使用)、美容師(親指を過度に使うハサミ動作)、パソコン業務(キーボードの過度な使用)、音楽家(ピアノ、ギターなど)、スポーツ選手(グリップ動作を伴うゴルフやテニスなど) - 妊娠・出産期の女性、更年期ごろの女性
女性ホルモンのバランスの変動が発症に関与していると考えられています。
さらに、家事における負荷や赤ちゃんの抱っこ、オムツ替えなどの動作による負荷が加わるため腱鞘炎になりやすい状況と考えられます。
ドケルバン病の症状
手関節周囲(親指側)の腫れや痛み
- 親指を使う際に痛みを生じます。
特に親指に力を入れる動作や親指を広げる動作(人差し指から離す)をする時に痛みが強く出ます。 - 腱鞘が炎症で腫れるため、外観上でも腫れがわかることもあります。また押さえると痛みが出ます(圧痛)。
- 症状が悪化すると力を入らなくなります。
ドケルバン病の診断
実はドケルバン病の診断はそれほど難しくはありません。
セルフチェックできる簡単な方法を一つ紹介します。
セルフチェック方法
下図のような肢位を取ってみましょう。
実際の診療ではフィンケルシュタイン変法という診断方法にあたります。
日本整形外科学会HPより引用
1. 親指を中に入れるようにして握り拳を作ります。
2. その状態で、手首を小指側に傾けるように力を入れます。
痛みが誘発されれば、陽性です。
(ドケルバンの可能性あり)
ドケルバン病の治療
ドケルバン病の治療方法は、安静、内服、注射が基本となります。症状の改善が見られず、日常生活に支障をきたす場合に手術(腱鞘切開)が考慮されます。
安静
- 痛みが出る動作を避ける
例 フライパンを持ち上げる
片手スマホ
- 夜間装具をつける
親指や手首を軽く固定することで安静を保てます。
育児方法の工夫
『手を使わない』のは無理ですが、手にかかる負担を減らすよう工夫をすることは可能です。
そのためには、赤ちゃんの安全を確保した上で、「抱っこは〇〇すべき」「沐浴は〇〇すべき」というのを変えると楽になります。
抱っこや沐浴の工夫
- 手、手首で支えず、腕や体全体で支えるイメージで抱っこする
・上腕で赤ちゃんの頭を支えます
・手首に力を入れて曲げすぎない
・赤ちゃんを自分の方に引き寄せる
(赤ちゃんを自分から少し離して抱っこするママがいますがそれでは負担が大きくなります) - 座った状態での抱っこ、授乳クッションを使う
ママの体温を感じ、心音が聞こえると赤ちゃんは安心しますよね。その状態を作るのは立った状態の抱っこだけではありません。ママが座っていても、授乳クッションを使っていても、体が密着して安心感を与えられることができればOK。もちろん赤ちゃんにも好みがあるのでいろいろ試して楽な方法を見つけて下さい。 - 思い切って沐浴の方法を変える
・補助用具(バスチェアなど)を使う(リクライニングしたものであれば月齢の低い赤ちゃんにも対応)
・しっかり、きっちり洗うのをやめる(おまた、お尻、首のシワ、脇の下の汚れやすいところだけ洗う)
・辛い時は『掛け湯だけ』、『体拭きだけ』でも大丈夫!
授乳方法を見直す
- 高さを調整する、授乳クッションを使う
手で赤ちゃんを支えなくても良い高さを見つけましょう。
高さが合っていないと、ママの首や腰も痛めてしまいます。 - 搾乳が必要であれば電動を使ってみる
- 助産師、授乳外来に相談してみる
授乳のプロ達は個別に、状況に応じたアイデアを提案してくれます。
妊娠・授乳中のお薬、注射について
- 授乳中のママが薬を飲むと、飲んだ薬の成分は母乳中に移行します。しかし多くの場合、母乳に移行するのは少量で、さらに赤ちゃんの体に吸収されるのはそのまたごく一部であるため、赤ちゃんに影響を与えることはほぼないと考えられています(一部の薬を除く)。
- 妊娠中に関しては、薬の種類や妊娠週数によって使用できるものと使用しない方がよい薬があります。
※以下、商品名ではなく成分名で記載しています。
外用薬
痛み止めの湿布、軟膏は授乳中でも使用できます。
局所でしか作用しないので血液中にはわずかしか入りません。よって母乳に移行する量もごくわずかとされています。
※ただし、使用する際には患部のサイズに合わせて切り取り、最小限の量を貼付する(軟膏の場合には塗布)などの工夫をした方がより安心です。
妊娠中は、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコールを成分とする外用薬を使うことができます。
※これらの成分は、非ステロイド性消炎鎮痛剤には該当しません。
内服薬
妊娠・授乳中に使用でいる消炎鎮痛剤(痛み止め)はいくつかあります。
その中でもアセトアミノフェン、イブプロフェンは特に赤ちゃんへの影響が少ないといわれています。
薬の成分は内服後3、4時間すると血液中の濃度がさらに減少しているので、より薬の影響が少なくなるといわれています。
妊娠中の方には、アセトアミノフェンが処方されます。妊娠全期間にわたって常用量であれば安全に使用できると考えられています。
局所注射
一般的に、症状が強い腱鞘炎に対してはステロイド局所注射が行われます。
妊娠・授乳中でも受けることができると考えられており、実際に多くの整形外科で実施されています。
腱鞘内にステロイド(これに局所麻酔薬を混ぜることがあります)を注射するもので、ママの血液中への成分の移行も少ない(母乳への移行も少ない)と考えられているからです。また長期間の連続投与でないことも理由の一つです。
ここで一緒に使用されることの多い局所麻酔薬も母乳への移行は少ないとされています。
個人的には、ステロイド局所注射は1、2回でよく効く印象があります。痛みが強くて困っているママ達には治療の選択肢の一つとして考えてもらいたいと思っています。
症状が強い場合には、主治医の先生に相談してみてください。
手術治療
ステロイド注射を受けても効果が一時的であったり、症状が改善しない場合には手術が考慮されます。
腱鞘切開術
手術は比較的短時間で終わり、局所麻酔での日帰り手術になることがほとんどです。
腱鞘の部位に2cmほどの皮膚切開を加え、肥厚した腱鞘を切開します。これにより狭窄していたトンネルが開放し母指の腱がスムーズに滑走するようになり炎症が治ります。
日本整形外科学会HPより引用
まとめ
産前・産後によく発症する腱鞘炎 ”ドケルバン病” について解説しました。
- 発症には手指の負荷、女性ホルモンの関与が影響します
- 手指の負荷を減らすためには、日常動作、育児方法の工夫が大切です
- 妊娠・授乳中の方にも使用できるお薬、注射があります
個別にいろいろとご質問、ご相談がある方は、オンライン保健室をご利用ください。
ドケルバン病予防のストレッチ指導も行っております。
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