産後の手のしびれ、痛み:手根管症候群

ママのための整形外科
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手根管症候群とは

手根管症候群は外来では一般的な末梢神経の疾患です。
手首にある正中神経が圧迫されることにより、手のしびれや痛みが生じ、それによって『子どもを抱っこできない』『雑巾を絞れない』など日常生活に支障をきたします。

産前、産後のママによく起こる手根管症候群。
授乳中の治療についても解説します。

手根管ってなんですか?

手根管とは、手首のてのひら側にある骨と靭帯に囲まれた空間のことを言います。
この空間には、手指を曲げる筋肉の腱(屈筋腱)と正中神経が入っています。これらがプラプラしないように横手根靭帯が覆っています。

手根管の断面図

原因

多くのケースでは原因不明です。

一般的には更年期の女性や、特に妊娠・出産前後の女性で起こりやすいと言われています。そのため女性ホルモンの影響があるのではないかと推測されています。

明らかな原因があるものとしては、骨折などのケガ、手の使いすぎ(仕事やスポーツ)、人工透析があります。

女性ホルモンの影響や機械的刺激により横手根靭帯や正中神経周囲の組織が腫れ、正中神経が圧迫されてしまうことが本症の病態です。

症状

  • 手首の痛み
    痛みのために「子どもの抱っこ」や家事などができなくなります
    また夜間〜朝方、
    痛みのために目が覚めることもあります
  • 手のしびれ
    図のように、正中神経の支配領域がしびれます
  • (重症化すると)母指球筋の萎縮
    細かいものがつまみ動作がしにくくなります

診断方法

症状から診断を推測することが比較的容易な疾患ですが、以下の確認も行います。

  • 手首を叩くと痛みやしびれが指先に届くか(Tinel sign)
  • 手首を下図のように手根管を圧迫する動作をすると症状が悪化するか(Phalen test)

補助検査として

  • 神経伝導速度検査
  • エコー検査

治療

手根管症候群の一般的な治療は、安静、内服、注射になります。どうしても治らない場合、手術(手根管解放術)が行われています。

産後のママ達の場合、授乳が終わりホルモンのバランスが回復してくると症状も良くなる傾向にあります。

『手を使わない』のが一番の治療ですが、子育て中のママ達には無理な話です。

ママ

安静とか無理。

ママ

授乳中は薬や注射も心配です。

授乳中でも使えるとされる薬は意外に多くあります。
子育て、授乳中のママ達ができる対処法を説明します。

育児方法の工夫

『手を使わない』のは無理ですが、手にかかる負担を減らすよう工夫をすることは可能です。
そのためには、赤ちゃんの安全を確保した上で、「抱っこは〇〇すべき」、「沐浴は〇〇すべき」というのを変えると楽になります。

抱っこや沐浴の工夫

  1. 手、手首で支えず、腕や体全体で支えるイメージで抱っこする
    ・上腕で赤ちゃんの頭を支えます
    ・手首に力を入れて曲げすぎない

    赤ちゃんを自分の方に引き寄せる
    (赤ちゃんを自分から少し離して抱っこするママがいますがそれでは負担が大きくなります)
  2. 座った状態での抱っこ、授乳クッションを使う
    ママの体温を感じ心音が聞こえると赤ちゃんは安心しますよね。その状態を作るのは立った状態の抱っこだけではありません。ママが座っていても授乳クッションを使っていても体が密着して安心感を与えられることができればOK。もちろん赤ちゃんにも好みがあるのでいろいろ試して楽な方法を見つけて下さい。
  3. 思い切って沐浴の方法を変える
    ・補助用具(バスチェアなど)を使う(リクライニングしたものであれば月齢の低い赤ちゃんにも対応)
    しっかり、きっちり洗うのをやめる(おまた、お尻、首のシワ、脇の下の汚れやすいところだけ洗う)
    ・辛い時は『掛け湯だけ』、『体拭きだけ』でも大丈夫

授乳方法を見直す

  1. 高さを調整する、授乳クッションを使う
    手で赤ちゃんを支えなくても良い高さを見つけましょう。
    高さが合っていないと、ママの首や腰も痛めてしまいます
  2. 搾乳が必要であれば電動を使ってみる
  3. 助産師、授乳外来に相談してみる
    授乳のプロ達は個別に状況に応じたアイデアを提案してくれます。

妊娠・授乳中のお薬、注射について

  • ママが薬を飲むと、飲んだ薬の成分は母乳中に移行します。しかし多くの場合、母乳に移行するのは少量でし、さらに赤ちゃんの体に吸収されるのはそのまたごく一部であるため、赤ちゃんに影響を与える可能性は少ないと考えられています(一部の薬を除く)
  • 妊娠中に関しては、薬の種類や妊娠週数によって使用できるものと使用しない方がよい薬があります。
    ※ここでは商品名ではなく成分名で記載しています

外用薬

授乳中
痛み止めの湿布、軟膏は授乳中でも使用できます。
局所でしか作用しないので血液中にはわずかしか入りません。よって母乳に移行する量もごくわずかとされています。
※ただし、使用する際には患部のサイズに合わせて切り取り、最小限の量を貼付する(軟膏の場合には塗布)などの工夫をした方がより安心です。
 
妊娠中
妊娠中は、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコールを成分とする外用薬を使うことができます。※これらの成分は、非ステロイド性消炎鎮痛剤には該当しません。
 
ケトプロフェンを含む外用薬は妊娠後期の女性には禁忌となっています。
(酸素供給に重要な胎児動脈管の収縮を起こす可能性があるため)
厚労省 医薬品・医療機器等安全情報
※ケトプロフェン以外の非ステロイド性消炎鎮痛剤の外用薬では、胎児動脈管収縮がおきた報告はないとされます。しかし、胎児動脈管収縮が生じる可能性を否定できないため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に使用することが推奨されています(妊娠後期)。
 
内服薬

妊娠・授乳中に使用でいる消炎鎮痛剤(痛み止め)はいくつかあります。

授乳中
その中でもアセトアミノフェン、イブプロフェンは特に赤ちゃんへの影響が少ないといわれています。

 

薬の成分は内服後3,4時間すると血液中の濃度がさらに減少しているので、より薬の影響が少なくなるといわれています。

妊娠中
妊娠中の方には、アセトアミノフェンが処方されます。妊娠全期間にわたって常用量であれば安全に使用できると考えられています。
市販薬の中には、いくつかの成分が混ざったものがあるので注意が必要!

※授乳中でも安全に使用できると考えられている薬については国立成育医療研究センターのHPが参考になります。

 

局所注射
一般的に、症状が強い手根管症候群に対してはステロイド局所注射が行われます。
妊娠・授乳中でも受けることができると考えられおり、実際に多くの整形外科で実施されています。
手根管内にステロイド(これに局所麻酔薬を混ざることがあります)を注射するもので、ママの血液中への成分の移行も少ない(母乳への移行も少ない)と考えられているからです。また長期間の連続投与でないことも理由の一つです。
ここで一緒に使用される局所麻酔薬も母乳への移行は少ないとされています。

個人的には、ステロイド局所注射は1、2回でよく効く印象があります。痛みが強くて困っているママ達には治療の選択肢の一つとして考えてもらいたいと思っています。
症状が強い場合には、主治医の先生に相談してみてください。




ステロイド局所注射を受けても、母乳で育てられた乳児に悪影響を与えることはないと考えられています。しかし、一時的な母乳量の低下が報告されています。
米国国立衛生研究所 (NIH) 運営LactMed
 

まとめ

  • 手根管症候群は女性ホルモンの影響で産後に発症することがあります
  • 痛みのために通常の育児に支障が出るため、育児方法を工夫することが大切です
  • 授乳中でも安全に使用できるとされている痛み止めがあります
  • 授乳中でも安全にステロイド局所注射を受けることができるとされます
  • 自然経過としては、授乳期終了後に症状も改善していくといわれています

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